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2010年3月 9日 (火)

クラシック漫遊ガイド(4)演奏はナンバーワンよりオンリーワン

同じ曲でも、録音時期や音質、演奏者のキャラクターなど様々な要素で演奏が異なり、聴き比べができるのもクラシックの楽しみのひとつです。 (編)

クラシック音楽を聴き始めた頃、一番気になったのは、同じ曲でも「名演奏」とか「名盤」があるらしいということだ。

私が学生の頃、LPレコード1枚が2,000円前後。1枚買えばほぼお小遣いひと月分がふっとんだから、例えばベルリオーズの「幻想交響曲」などを聴こうと思っても、レコード店に数種類並ぶうちのどの1枚を選ぶのかは、かなり頭を悩ませる問題だった。

それはCD時代になった現在でも変わらない。選びに選んだ挙げ句買った1枚が「名盤100選」などに載っていれば誰でも嬉しいが、時には「全然ダメ」という評価だったりしてちょっとガッカリ。クラシック・マニアはその繰り返しである。

それにしても、クラシックって、そんなに指揮者や演奏家によって音楽が変わるのだろうか?

その答えは微妙だ。確かに曲によって「圧倒的な(あるいは独創的な)名演」というのはある。だから、そういうものに出会うと、「演奏でこうまで違うのか」と思うことがある。
ただ、所詮オーケストラはオーケストラ、ピアノはピアノだから、普通の演奏でも、ジョン・レノンが歌った歌を森進一が歌う…というほど違うわけではない。

もし聴いてすぐ分かる違いがあるとしたら、まず音質だ。ワルターの戦前のモノラル録音(1930年代)か、カラヤンの時代のステレオ録音(1960年代)か、今月新譜のデジタル録音(2000年代)かは、聴けばまず分かる。

公平に見れば、音質が良い方がいい。それは確かだ。だからクラシックは、50年前の演奏がどんなに名盤の誉れが高くても、毎月新録音による新譜が出るわけなのだ。

01_4 「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」(NML)で、ベートーヴェンの「交響曲第5番」を検索した時の表示結果。歴史的録音から最新の録音まで、またオーソドックスな演奏から珍演・奇演(?)まで、同じ曲で40種類ほどの音源を聴くことができる。
じゃあ、音質以外はどんな演奏も同じなのか?というと、そうではないから面白い。演奏家による演奏の違いは歴然と「ある」のである。
                              
                                                                                                      
なにしろクラシック音楽の場合は、100年も200年も前に書かれた音楽。例えば、楽譜に「早いテンポで」と書いてあっても、200年前(日本で言えば江戸時代!)の「早い」と、現代の「早い」が同じのはずもない。

となると、楽譜に書いてあるままのテンポではなく、現代風に「早め」に演奏するのがベストなのか、あるいは書いた時代のテンポをあくまでも尊重して、現代で聴けば「少しゆっくりめ」に弾くのがベストなのか?。これは演奏家の「解釈」でかなり差が出てくることになる。

例えば、ロミオとジュリエットのような悲恋物語を演じるのでも、年季の入った大女優が厚化粧で飾り付きの華やかなドレスを着て朗々と声を張り上げれば、重厚でロマンの香りたっぷりな舞台になる。

しかしこれを、若い女優がナチュラルメイクでシンプルな衣装を着て現代口調で演じたとしたら、かなり違った舞台になるはずだ。演奏も同じこと。同じ物語でも「解釈」次第でずいぶん雰囲気が変わるのである。

先にちょっと話が出たベルリオーズの「幻想交響曲」なら、飾り気のないスマートさを前面に出すノリントンのステレオ盤と、昔懐かしロマンの香り漂うワルターによるモノラル盤などを聞き比べてみると分かりやすいかも知れない。

あるいは、ショパンなら、往年のコルトールビンシュタインの歴史的な演奏と、最近のビレットや中国のイン・シェンゾンの演奏などはどうだろう。どちらが好みかは、もちろん聴く「あなた」が決めることだ。

もうひとつ、今、「ノリントンの」とか「ルビンシュタインの」などと書いたように、演奏者自身のキャラクターも重要なポイントになる。
ワルツはドレス姿の西洋美人が似合うけれど、日本舞踊を踊るなら着物姿の日本人女性の方が似合う。同じように、ショパンなら同じポーランド出身のピアニストの方が(雰囲気的に)合いそうな「気がする」のが人情。

だから、ベートーヴェンやブラームスなどドイツ系の音楽は、ドイツ人指揮者やドイツのオーケストラが。チャイコフスキーやラフマニノフやショスタコーヴィチなら、ロシア系のピアニストや指揮者が「民族的」にやはり合いそうな「気がする」。

そんなわけで、同じ演奏なら美女やイケメン演奏家が弾いている方がいい…というのも、あながちミーハー的な嗜好と切り捨てがたい。
演奏家のキャラクターは、その出身国の伝統とその国の気質、そしてルックスや雰囲気と相まって、音楽を聴く上で結構大きなポイントとなるのは否定しがたい事実だからだ。
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シャロン・ベザリー(フルーティスト)                               フレディ・ケンプ(ピアニスト)

演奏家のビジュアルを強調したCDジャケット。
クラシックの世界でもこのような売り出し方は今や珍しくなくなったが、勿論彼ら、彼女らの実力も一級品である。
[※ジャケットをクリックすると、各トラックの冒頭30秒のみ試聴できます。]

ただ、「民族的」ということについては、ことはそう単純ではない。特に現代では、ドイツのオーケストラと言っても、指揮者がイギリス人でコンサートマスターがイタリア人、人気ソリストが日本人などと、世界中から腕利きが集まっている国連なみの例が極めて多い。逆に日本の演奏家が世界的なレベルでモーツァルトやバッハを演奏することだってあるからだ。

なにしろ時代は21世紀。もはやヨーロッパ人だけが西洋クラシック音楽を占有する時代ではない。日本人がイギリスのロックを歌い、アメリカ人がフランスのシャンソンを歌い、中国人がポーランドのショパンを弾き、イギリス人が日本の交響曲を演奏する。そんな時代のクラシック音楽を「発見」してみるのもまた一興。

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c2008 Naxos Right International Ltd

中国のヴァイオリニスト、楊天堝と、ドイツのピアニスト、マルクス・ハドゥッラの共演風景。
曲:サラサーテ「ハバネラ」
出典:Virtuoso Music of the 19th Century (Naxos DVD 2 .110227)

唯一の名演を探すのではない。心の琴線に触れる色々な演奏に出会うことこそが音楽を聴く楽しみなのである。ほら、歌でも言うではないか。「ナンバーワンよりオンリーワン」と。
   
= 今月のお勧めアルバム =

画像をクリックすると、NAXOS MUSIC LIBRARY の各アルバムのページが開き、それぞれのアルバムは、全曲を冒頭30秒のみ無料で聴くことができます。











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